耳鳴りが酷い。周囲の音はよく聞こえず、キーンとがなり立てている。
自分が世界から隔離されていくような、別次元に切り取られたような感覚。
視界は黒ではなく、真っ黄色になった。
レーザー治療の時、真っピンクになったが、真っ黄色はなかった。
↓ レーザー治療の真っピンク
食事前の薬を飲んでいたが、それのせいだろうか?
佐藤が飲んでいる食前の薬とは、ボグリボースだ。これは食事による急激な血糖値の上昇を抑える薬。
飲んでいる薬の中で、唯一低血糖になる可能性が高い薬だ。(他のは低い)
低血糖、の文字が頭をよぎる。
低血糖の症状は……入院中、なんて指導されたっけ?
手足の激しい震えと、強い眠気と、冷や汗? だめだ、よくものを考えられない。
ブドウ糖を持ち歩いていたが、目が見えないし、今は口もきけない。姪にブドウ糖が入っているバッグの場所を説明できない。
そうだ、姪がオレンジジュースを頼んでいた。
手探りでオレンジジュースを探し当てて、一口飲んだが、全然解消されない。
糖→ブドウ糖に変換されるには時間がかかるからかもしれないが、この時は軽いパニックだったので、そこまで考えが至らなかった。
しかも食事中に低血糖って、あるだろうか? もし逆で高血糖だったら、オレンジジュースでは症状を悪化させるのではないだろうか? 危険なのではないだろうか?
低血糖なのか高血糖なのか。
病院で数値を計らなければ分からない。それとも血圧?
あかん。自分では決断できない。
救急車、という言葉が頭をよぎった。病院に運ばれれば、今の血糖値が分かる。血糖値なのか血圧なのか貧血なのか、それとも他の原因なのか、きっと分かるだろう。
椅子では駄目だ。横になりたい。つらい。
しかしここは激狭の立ち食いレストラン、人がすれ違うだけでも難儀な狭さ。
横になりたい横になりたい横になりたい。座っているのもつらい。吐き気はするしトイレにも行きたくなった。
しかし体は動かないし、言葉を発するのもつらい。
てか貧血ってこんなだったっけ? すぐに戻るものではなかったのか? どんどん酷くなるんですけど。
そうだ、お湯。貰ったぬるま湯を飲もう。気分転換になるかも。リセットされるかも。
目が見えないので、手探りで探す。ストローが刺さっていたので、それを指先で確認した。といっても、指先の感覚も自分のものとはとても思えず、更に佐藤を恐怖に陥れる。姪を不安にさせてはいけないと、それをよすがに頑張り、お湯を口に運んだ。
が、あかん。全然効果が無い。
なにがどう辛いのか、自分でもよく分からなかった。とにかく辛い。
頭を起こしていられず、カウンターに突っ伏する。
手の甲の上に顎を乗せて目を伏せ、じっとしていたが、手の甲がぐっしょり濡れた。
ヨダレでもたらしてる? と口元を拭ったが、そうではないようだ。
額を拭ったら、これまたぐっしょり濡れていた。
脂汗をかいている。……こんなに寒いのに。
もう本気でまずい。
「救急車呼んで」
と喉元まで出かかった。お医者さんに助けて欲しい。
しかし年末の東京、貧血(の疑い)が戻らないくらいで、救急車なんて呼んでもいいのだろうか?
いや、貧血ではないのかもしれない。いくらなんでも、貧血でこんなに具合が悪くなるか? しかもこんなに長い間、別次元に行ったみたいになって現実に戻れないなんて、あるだろうか? 本格的に貧血を起こしたことがほぼ無いから分からない。
とにかく横になりたい。店を出て路上で横になりたい。
救急車or路上に出て横になる
これを何度も何度も思って、迷った。
大げさにしたくない。路上に横になってたら、救急車を呼ばれそう。そしたら周囲に迷惑かけずに横になろう、という発想が無駄になる。
つらいお腹痛い吐きたい耳鳴りが痛い視界が戻らない、もう泣きたい。
視界は真っ黄色から真っ黒になった。意識はあるのに、周囲は見えないし、音は聞こえない。
そもそもここを出てからどうしよう。電車に乗れるだろうか?
……とても無理なんですけど。歩いて駅に行くことすら無理だ……ここはやっぱり、救急車…?
姪
「タクシーで帰ろう。私が出すから」
姪はバイトをみっちり入れて頑張り、今月9万円貰った、と言っていた。朝五時から起き出して頑張って働き、その後学校に行って勉強をしている。それは駄目だ。絶対に駄目だ。
「いや…大丈夫……自分で出す……ちなみに、家までいくら?」
「八千円は越すと思う」
「……」
お腹痛い。
なんだろう、急に。大きい方を漏らしそうな感覚になる。ヤバイ。はげしくヤバイ。
なんで急に、トイレ――。
視界は真っ暗から改善していたが、黄色いまま。しかしその黄色が少し薄れてきた。
黒く塗りつぶされている箇所も前より減ってくる。
なによりお腹がヤバイ。トイレ行きたい。この歳でしかもレストランでしかもこんな激狭な場所で脱○とか洒落にならん。
つか、具合が悪くて脱○しそうになるとか、やはり尋常ではない。
なんとか立ち上がってトイレへ。脱○だけは避けたい。
しかしトイレに行って、絶望した。
使用中。
神よ
ドアを泣きながらドンドン叩きたくなった。女性はトイレに時間が掛かる。中に入っている女性も、きっと長く入ってなかなか出てこないだろう。
早くして早くして早くして早くして早くして早くして
気が遠くなりそうな数分間だった。
やっと出てきた人と入れ違いに、なんとかトイレに入った。
女性が出てくるのがあと三十秒遅かったら、ひょっとしたらまずかったかもしれない。
にほんブログ村 人気ブログランキングへ
自分が世界から隔離されていくような、別次元に切り取られたような感覚。
視界は黒ではなく、真っ黄色になった。
レーザー治療の時、真っピンクになったが、真っ黄色はなかった。
↓ レーザー治療の真っピンク
食事前の薬を飲んでいたが、それのせいだろうか?
佐藤が飲んでいる食前の薬とは、ボグリボースだ。これは食事による急激な血糖値の上昇を抑える薬。
飲んでいる薬の中で、唯一低血糖になる可能性が高い薬だ。(他のは低い)
低血糖、の文字が頭をよぎる。
低血糖の症状は……入院中、なんて指導されたっけ?
手足の激しい震えと、強い眠気と、冷や汗? だめだ、よくものを考えられない。
ブドウ糖を持ち歩いていたが、目が見えないし、今は口もきけない。姪にブドウ糖が入っているバッグの場所を説明できない。
そうだ、姪がオレンジジュースを頼んでいた。
手探りでオレンジジュースを探し当てて、一口飲んだが、全然解消されない。
糖→ブドウ糖に変換されるには時間がかかるからかもしれないが、この時は軽いパニックだったので、そこまで考えが至らなかった。
しかも食事中に低血糖って、あるだろうか? もし逆で高血糖だったら、オレンジジュースでは症状を悪化させるのではないだろうか? 危険なのではないだろうか?
低血糖なのか高血糖なのか。
病院で数値を計らなければ分からない。それとも血圧?
あかん。自分では決断できない。
救急車、という言葉が頭をよぎった。病院に運ばれれば、今の血糖値が分かる。血糖値なのか血圧なのか貧血なのか、それとも他の原因なのか、きっと分かるだろう。
椅子では駄目だ。横になりたい。つらい。
しかしここは激狭の立ち食いレストラン、人がすれ違うだけでも難儀な狭さ。
横になりたい横になりたい横になりたい。座っているのもつらい。吐き気はするしトイレにも行きたくなった。
しかし体は動かないし、言葉を発するのもつらい。
てか貧血ってこんなだったっけ? すぐに戻るものではなかったのか? どんどん酷くなるんですけど。
そうだ、お湯。貰ったぬるま湯を飲もう。気分転換になるかも。リセットされるかも。
目が見えないので、手探りで探す。ストローが刺さっていたので、それを指先で確認した。といっても、指先の感覚も自分のものとはとても思えず、更に佐藤を恐怖に陥れる。姪を不安にさせてはいけないと、それをよすがに頑張り、お湯を口に運んだ。
が、あかん。全然効果が無い。
なにがどう辛いのか、自分でもよく分からなかった。とにかく辛い。
頭を起こしていられず、カウンターに突っ伏する。
手の甲の上に顎を乗せて目を伏せ、じっとしていたが、手の甲がぐっしょり濡れた。
ヨダレでもたらしてる? と口元を拭ったが、そうではないようだ。
額を拭ったら、これまたぐっしょり濡れていた。
脂汗をかいている。……こんなに寒いのに。
もう本気でまずい。
「救急車呼んで」
と喉元まで出かかった。お医者さんに助けて欲しい。
しかし年末の東京、貧血(の疑い)が戻らないくらいで、救急車なんて呼んでもいいのだろうか?
いや、貧血ではないのかもしれない。いくらなんでも、貧血でこんなに具合が悪くなるか? しかもこんなに長い間、別次元に行ったみたいになって現実に戻れないなんて、あるだろうか? 本格的に貧血を起こしたことがほぼ無いから分からない。
とにかく横になりたい。店を出て路上で横になりたい。
救急車or路上に出て横になる
これを何度も何度も思って、迷った。
大げさにしたくない。路上に横になってたら、救急車を呼ばれそう。そしたら周囲に迷惑かけずに横になろう、という発想が無駄になる。
つらいお腹痛い吐きたい耳鳴りが痛い視界が戻らない、もう泣きたい。
視界は真っ黄色から真っ黒になった。意識はあるのに、周囲は見えないし、音は聞こえない。
そもそもここを出てからどうしよう。電車に乗れるだろうか?
……とても無理なんですけど。歩いて駅に行くことすら無理だ……ここはやっぱり、救急車…?
姪
「タクシーで帰ろう。私が出すから」
姪はバイトをみっちり入れて頑張り、今月9万円貰った、と言っていた。朝五時から起き出して頑張って働き、その後学校に行って勉強をしている。それは駄目だ。絶対に駄目だ。
「いや…大丈夫……自分で出す……ちなみに、家までいくら?」
「八千円は越すと思う」
「……」
お腹痛い。
なんだろう、急に。大きい方を漏らしそうな感覚になる。ヤバイ。はげしくヤバイ。
なんで急に、トイレ――。
視界は真っ暗から改善していたが、黄色いまま。しかしその黄色が少し薄れてきた。
黒く塗りつぶされている箇所も前より減ってくる。
なによりお腹がヤバイ。トイレ行きたい。この歳でしかもレストランでしかもこんな激狭な場所で脱○とか洒落にならん。
つか、具合が悪くて脱○しそうになるとか、やはり尋常ではない。
なんとか立ち上がってトイレへ。脱○だけは避けたい。
しかしトイレに行って、絶望した。
使用中。
神よ
ドアを泣きながらドンドン叩きたくなった。女性はトイレに時間が掛かる。中に入っている女性も、きっと長く入ってなかなか出てこないだろう。
早くして早くして早くして早くして早くして早くして
気が遠くなりそうな数分間だった。
やっと出てきた人と入れ違いに、なんとかトイレに入った。
女性が出てくるのがあと三十秒遅かったら、ひょっとしたらまずかったかもしれない。
にほんブログ村 人気ブログランキングへ
コメント一覧