このタイミングで、ドイツ子が日本に帰ってきた。
明日、駅まで迎えに行く約束をしていた。
千葉子も帰ってくる。わざわざドイツ子・佐藤とお酒を飲むためだけに。三人だけで会うために。仲良し三人だけで会うのは、ン十年ぶりだ。
予定では佐藤が二人を駅まで車で迎えに行って、飲みに行くことになっていた。
のにこのタイミンクで右目……。つくづくタイミングというやつに恵まれてない。
仕事で確定申告の準備はあるし。
さっき、千葉子と電話した。
千葉子は、ドイツ子に病気――子宮がんで手術を受けたことを告白するという。死ぬつもりはまったくないし、初期だったから再発はまず無いが、もしものことがあって私が死んだらきっとショックが大きいだろう、とのことで。
今まで黙っていたが、ドイツ子の旦那さんが無事肺移植を受けられ退院したことだし、もうそろそろ打ち明けてもいいだろう、と。
「佐藤はどうすんの。ドイツ子に自分の病気のこと言うの?」
「……私は言わない」
だかこのタイミンクで右目……。昨日までは右目と左目の大きさが変わっていたのだが、今日にはもう同じ大きさになっている。言わなきゃ分からんだろう。
だが車の運転に不安が残るし夜の運転ということで、妹が送迎してくれることになった。
ドイツ子に「佐藤が迎えに来るって言ってたのに、なんで妹ちゃん?」と不審に思われるだろう。
「そろそろ告白する潮時なんじゃない?」
「……でもなんかこう……ドイツ子には知られたくない」
海外生活が長いせいか、ドイツ子は立ち入られたくないところというか、佐藤自身すら目をそらしたい現実をバシバシ突いてくるのだ。直截的というか、オープンというか。日本人なら口をつぐんで気づかないふりをするところを、しっかり見て知ろうとする。
そこがつらい。
いま陽気に生きることでいっぱいいっぱいなのに、「将来どうするの」とか聞かれそう。触れてほしくないので、ここはやっぱり知られたくない。
彼女は私にすべてをさらけ出して、信用して接してくれているのに、私はさらけ出せないという、とっても申し訳ないというか、弱い人間ですんませんって感じだが。
佐藤
「帰ってくる新幹線の中で、『佐藤、右目がよく見えないらしいよ、数ヶ月で元に戻るそうだけど。でもドイツ子には知られなくないみたい。心配かけたくないみたい』とでも言っといてくれ」
千葉子
「ええー。『なんで? なんで右目が見えないの? なんの病気なの?』って絶対聞かれるじゃん私」
佐藤
「『さー、私にも知られたくないみたいで、詳しくは知らない。でも大丈夫、今だけみたいだから』とでも言っといてくれ」
千葉子
「なに、そのあとで『あとね、実は私、癌の手術を受けたんだ』とか言うのかい。ちょ、いやーん(笑)」
佐藤
「とにかく『佐藤は知られたくないみたいだから、ドイツ子も知らないふりしてて。私がバラしたって言わないで』とでも言ってくれよぅ」
千葉子
「なんだその三文芝居。私にやれってか」
とにかくそういうことになった。
だが……ドイツ子、やはり聞いてきそうな気がする。
↑誤字脱字があったらすみません。
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明日、駅まで迎えに行く約束をしていた。
千葉子も帰ってくる。わざわざドイツ子・佐藤とお酒を飲むためだけに。三人だけで会うために。仲良し三人だけで会うのは、ン十年ぶりだ。
予定では佐藤が二人を駅まで車で迎えに行って、飲みに行くことになっていた。
のにこのタイミンクで右目……。つくづくタイミングというやつに恵まれてない。
仕事で確定申告の準備はあるし。
さっき、千葉子と電話した。
千葉子は、ドイツ子に病気――子宮がんで手術を受けたことを告白するという。死ぬつもりはまったくないし、初期だったから再発はまず無いが、もしものことがあって私が死んだらきっとショックが大きいだろう、とのことで。
今まで黙っていたが、ドイツ子の旦那さんが無事肺移植を受けられ退院したことだし、もうそろそろ打ち明けてもいいだろう、と。
「佐藤はどうすんの。ドイツ子に自分の病気のこと言うの?」
「……私は言わない」
だかこのタイミンクで右目……。昨日までは右目と左目の大きさが変わっていたのだが、今日にはもう同じ大きさになっている。言わなきゃ分からんだろう。
だが車の運転に不安が残るし夜の運転ということで、妹が送迎してくれることになった。
ドイツ子に「佐藤が迎えに来るって言ってたのに、なんで妹ちゃん?」と不審に思われるだろう。
「そろそろ告白する潮時なんじゃない?」
「……でもなんかこう……ドイツ子には知られたくない」
海外生活が長いせいか、ドイツ子は立ち入られたくないところというか、佐藤自身すら目をそらしたい現実をバシバシ突いてくるのだ。直截的というか、オープンというか。日本人なら口をつぐんで気づかないふりをするところを、しっかり見て知ろうとする。
そこがつらい。
いま陽気に生きることでいっぱいいっぱいなのに、「将来どうするの」とか聞かれそう。触れてほしくないので、ここはやっぱり知られたくない。
彼女は私にすべてをさらけ出して、信用して接してくれているのに、私はさらけ出せないという、とっても申し訳ないというか、弱い人間ですんませんって感じだが。
佐藤
「帰ってくる新幹線の中で、『佐藤、右目がよく見えないらしいよ、数ヶ月で元に戻るそうだけど。でもドイツ子には知られなくないみたい。心配かけたくないみたい』とでも言っといてくれ」
千葉子
「ええー。『なんで? なんで右目が見えないの? なんの病気なの?』って絶対聞かれるじゃん私」
佐藤
「『さー、私にも知られたくないみたいで、詳しくは知らない。でも大丈夫、今だけみたいだから』とでも言っといてくれ」
千葉子
「なに、そのあとで『あとね、実は私、癌の手術を受けたんだ』とか言うのかい。ちょ、いやーん(笑)」
佐藤
「とにかく『佐藤は知られたくないみたいだから、ドイツ子も知らないふりしてて。私がバラしたって言わないで』とでも言ってくれよぅ」
千葉子
「なんだその三文芝居。私にやれってか」
とにかくそういうことになった。
だが……ドイツ子、やはり聞いてきそうな気がする。
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